大雪高原温泉ヒグマ情報センター
DAISETSU KOGEN ONSEN BROWN BEAR INFOMATION CENTER
日本の陸上哺乳類最大のヒグマ。
北海道の山を歩く上で、私たち人間がヒグマの生活圏にお邪魔する以上、いつ起こってもおかしくないヒグマとの遭遇。
そして最近、人間の生活圏に出没し農地や家畜に被害を出したり都市に出没する”アーバンベア”との遭遇。
ヒグマとヒトとの距離感がとても近くなる今日この頃、皆さんがもしヒグマと遭遇したらどうしますか…?
ここでは、高原温泉沼巡り登山とコースと高根ヶ原斜面に見られるヒグマ達の生態などの紹介と合わせて、ヒグマに出会っ時の対処方
法についてご紹介していきます。
ヒグマってどんな動物? まずは知ろう、ヒグマのこと
・名 称:ヒグマ( エゾヒグマ / Brown Bear / U. arctos )
・生息地:北海道
・体 長:オス…最大約2m、メス…最大約1.5m
・体 重:オス…約150~400kg、メス…100~200kg
・食 性:雑食性
ヒグマの食べ物は地域や季節によって大きく異なります。
沼巡り登山コースや高根ヶ原斜面で観察するヒグマ達(6~8月)は主に草本類を好んで食べているようで、
ミズバショウの根系や茎の下部、フキ、ハクサンボウフウなどを好んで食べています。
また時折石や土をひっくり返してアリなどを食べている様子も見らます。8月半ばを過ぎると高根ヶ原斜
面の草本類が固くなり、その代わりとなる木の実などを求めて違う餌場を求めて移動してしまう為、沼巡
りコースや高根ヶ原斜面で見られるヒグマ達の数はグッと減ってきてあまり見られなくなります。
また、内陸地となる大雪山では知床のように秋になって鮭を取るヒグマ達は見られません。
ちなみに草を食べているヒグマの糞はとてもいい香りで特に新しい糞は抹茶の様な香りがすることも。
・特 徴:英語でブラウン・ベアーという通り「クマ=黒」というイメージとは異なり、体色に茶色や白っぽい
毛色が混じることが多く、またその色合いも個体によって変化が大きいのです。
そしてもう一つ、顔の表情も1頭1頭が特徴的。
なんか優しそうでのんびりした顔をしている個体もいれば、いかつい顔をしている個体もいたりするんです。
オスもメスも大きく移動をしながら生活をしていますが、オスの方がより広い範囲を動き回るようです。
オスの行動範囲は年間数百平方キロ(メスは数十平方キロ/年間)に及ぶといわれており、これは大雪山全域に
またがると考えてもおかしくありません。
沼巡り登山コースや高根ヶ原斜面では、筋骨隆々の大きなオスはあまり見られず、子供連れの母グマや成長
途中の少し小柄なヒグマ達が多く見られます。
生息場所での明確な縄張りは持ちませんが、沼巡りコース内のヒグマ達を見ていると、お互いの距離感を
きちんと確保していて、うっかりそれが近づいてしまうとどちらかがそそくさと走って退散なんて事も。
オスは繁殖期になると相手を求めて非常に広い範囲を動き回ります。一
一方で子供を連れたメスはそういうオスを遠ざける傾向に。
高根ヶ原斜面でも採餌をしていたメスと子供達が急に現れた別のヒグマを見て慌てて走って逃げるという
光景が見られることもあります。
もしかすると繁殖期に高根ヶ原斜面にメスを求めてやってきたオスから逃げたのかもしれませんね。
ただ、パッと見の遠くからで単独のヒグマをオスかメスか見分けるのは至難の業。ヒグマ達の社会には彼
らなりの距離感があるのでしょう。
ヒトを積極的に襲うようなヒグマは実は少なく、大雪山ではこれまで過去50年の間でヒグマが人を襲った
という事故は起こっていません。
むしろヒグマは他の野生動物のようにヒトが近づくと自ら遠ざかったり、人目につかない藪の中にひっそ
りと隠れて人が通り過ぎるのをやり過ごす個体の方が多いともいわれます。
さらに沼巡りコースでは、シカと遭遇したヒグマが驚いて、シカではなくヒグマの方が逃げ出したり、アオ
ダイショウにもビックリしたりすることもあるみたいですよ。
沼巡り登山コースや高根ヶ原斜面で見るヒグマ達は、いわゆるヒグマの怖いイメージとは大きく異なる生態を
見せてくれます。
・冬ごもり:夏から晩秋にしっかりと栄養を蓄えて、早い個体では11月の終わりから翌年3月半ばまでヒグマ達は冬眠します。
冬ごもりの穴(越冬穴)は斜面の途中などに作られることが多く、多くのヒグマ達がいくつかの越冬穴を持ちその
穴を記憶するようです。
しっかりと長い横穴を掘って枝葉を敷き詰める個体も居れば、半分体がむき出しの浅い穴で体が雪をかぶった
状態で越冬する個体もいるようです。
穴の中では半睡と覚醒を繰り返すようで、メスは冬ごもりの間に1頭~3頭の子グマを出産します。
3月半ばになると徐々にヒグマ達の目覚めの季節。
まずオスが早く起き出し、次に子を連れていないメス、子を産んだ母グマが一番遅く出てきます。
そして冬ごもりの間にふやけてしまった手足の裏の皮を強くし筋力を回復するために、穴の周辺を徘徊し体を慣
らしていき、それが終わると、次第にそれぞれが餌場へと向かい動き始めます。
・高根ヶ原斜面で見られる親子グマ:
上述した通り、沼巡り登山コースやコース内のヒグマの餌場となることの多い高根ヶ原の斜面では頻繁に親子のヒグマ達の姿が見られます。
どうして高根ヶ原斜面に多くの親子グマが集まってくるのか、詳しいことはよくわかっていないのですが、 6月半ばのヒグマ情報センターオープン頃、まだコース内に多くの雪が残る中にわずかに表れだす新緑の草地を求めて現れて1ヶ月あまりの間、高根ヶ 原斜面や白雲小屋の周辺などを行ったり来たりして いる親子が見られます。冬ごもり中に生まれた0歳の小さな子グマを連れた母グマや2年目の子グマと連れ立つ親子などその構成も様々。雪渓や草地で駆けっこや雪滑り、相撲をする子グマ達やそれを見守る母グマ、連れ立って一緒に食事をする家族。人と同じような親子の様子はなんとも微笑ましくて、この風景がいつまでもこの大雪山で続いてくれることを強く願わずにはいられません。
やがて親離れをするその時まで、どうか子グマ達には元気で育ってほしいものですね。
まだ若い個体。優しそうな表情が印象的。
母グマ。体躯もさすがにガッシリ。
でも子グマを見守る表情には柔らかさも。
単独個体。
遠くからやってきたオスでしょうか。
肩の筋肉が隆々と逞しく見えています。
高根ヶ原斜面で採餌する親子グマ
まだ雪が残る高根ヶ原斜面を駆ける当歳の子グマと母グマ
採餌する母グマから少し離れたところでじゃれ合う2年目の
子グマ達
まずはヒグマに出会わないために
北海道での登山やハイキングなどのアウトドアアクティビティをするうえで気にしなくてはいけないヒグマ達の存在。
ヒグマに出会った時に起こる可能性のある事故も気になるところですが、ヒグマとの事故を避けるために一番重要なの
はヒグマに出会わない事です。
そのために何ができるかと、実際にヒグマとの近距離遭遇を体験したヒグマ情報センターの巡視員の体験も基にヒグマ
に出会った場合の対処方法をご紹介します。
★下記情報はあくまで参考となり、ヒグマに出会わないようにするため、また出会った場合に100%身を守れる方法とい
うものはありません。
◆TOPIC:そもそも、ヒグマとの事故ってどのくらい起きているの?◆
~ヒグマが関連する人身事故~
・期間:1962年~2023年(61年間)
・場所:北海道全域
・件数:151件
▶負傷者 → 112人(登山者の負傷は日高山脈で2名/軽症)
▶死亡者 → 58人(登山者の死亡は大雪山1名、日高山脈で3名)
上記の統計のデータに基づくと事故の多くはヒグマの駆除や狩猟中のものである他、山菜取りやキノコ採り中の事故も多いのが特徴で、林や藪の見通しの悪い中での突発的な出会いがしらの遭遇による事故が多くなる傾向が強くなります。なお、大雪山では50年以上人身事故は起こっていません。
1.まずは周りをよく見ながら歩きましょう!
登山道を歩いていてると、特に視界の限られる森の中などでは段々と視線が落ちてきて足元ばかり見てしまいがちですよね?
でも足元ばかり見てふと気が付いたらすぐそばにヒグマがいた!なんていうことも・・・。
笹藪の中に耳が見え隠れしていたり、ミズバショウの群落に背中が見えていたりなんてこともあるかもしれません。
沼巡り登山コースをはじめ、登山道を歩くときはどこかにクマが居るかもしれないと思いながら、自分の周りを注意して見る
ようにしましょう。そうして周りを見ていると、ヒグマの姿だけではなく足跡や、食痕、糞などの痕跡も目に付くと思います。
沼巡り登山コースでは巡視スタッフがそうした痕跡にマークを付けていますので探してみてください。
そして見るだけではなく、周囲の音も気にしてみてください。クマの大きな体が藪の中で動けばやはりそれなりに大きな音が
します。そんな音もクマの気配を知らせてくれる重要な手がかりです。ちなみにヒグマの気配だけではなく、コースの巡視中
ガサガサしたから振り返ってみたらシカだった、なんてことの方が実は多いのですが…
2.クマ鈴は効果あり♪
沼巡り登山コースや高根ヶ原周辺で見られるヒグマ達を観察していると、多くのヒグマ達は人を見たり、人の気配を感じると
逃げてしまうという個体が多く見受けられ、そんなヒグマ達にはクマ鈴も効果的のようです。まずは周りをよく見て歩きながら
クマ鈴も携行していただくことをお勧めします。
ただしクマ鈴を付ければ安心というわけではなく、下記のような場所ではクマ鈴の効果も薄れますので注意してください。
・ヒグマとの距離が遠い場合・・・ヒグマは耳が良いといわれますが、距離があると鈴の音が聞こえてもどこから音が出てい
るのか分からないこともあり辺りをキョロキョロしていることも。
進行方向、遠目にクマを発見した場合などは鈴と合わせて、大きな声でヒグマ達に自分の
場所を知らせるというのも一つの方法です。
・沢筋などを歩いている場合・・・沢筋を歩いている場合などは水流の音で鈴の音がかき消されてしまいます。そんな状態で
沢筋の上り坂を上った先でヒグマと出合い頭に遭遇・・・なんてことを体験した巡視スタ
ッフもいました。これはビビりますね・・・
そんなことにならないように、沢筋を歩く際には鈴をいつもより強めに鳴らしたり、見通しの悪い場所では声を大きく出したりしなが
ら注意深く歩いてください。
また、超近距離(20m以内)でヒグマに出会った場合、ヒグマの目の前で鈴を鳴らしたりするのはヒグマからすると威嚇行為となる可
能性ので避けてください。
ミズバショウの群落で採餌するヒグマ。
最近は必要に応じて消音できるクマ鈴(左)も。
3.絶対に食べ物やごみを捨てないで!
ヒグマは非常に鼻が利きます。その嗅覚は犬の6~8倍とも言われるほどで土中に埋まっている餌でも容易に見つけられるそ
うです。そして学習能力が高い動物であるということもよく言われます。そのため一度人間の捨てた食べ物や、餌として与えて
しまったものがあるとその味を覚えて、同じ場所に居つき続けるようになってしまいます。それは登山道におけるリスクの増大
につながります。
そしてそれは人にとってのリスクだけではなく、ヒグマ達にとってのリスクともなり得るのです。
もし人が与えたものに慣れ、人に慣れてしまったヒグマが、鳥獣保護区である大雪山の国立公園を出て人間の生活圏に近づい
てしまったらどうなるでしょう・・・?
鳥獣保護区以外では人の生活に近づくヒグマ、また人から逃げないヒグマは狩猟の対象となり容易く猟られてしまう可能性が
あります。
例え意図しない場合であっても、人間の食べ物がヒグマの生息地に残されるということが、ヒグマと人間、双方にとっての
リスクとなることを私達はしっかりと頭に入れておかなくてはいけません。
なお、沼巡り登山コースではコース内で食事ができる場所を3か所(緑沼、大学沼、高原沼)に制限し、その内容についても制限
を設けています(においの強いカップラーメンや調理による食事はダメなど)。
大学沼に落ちていたおにぎりの食べ残し
もしヒグマに出会ってしまったら
4.まず落ち着いて、ヒグマを刺激しない事
ヒグマの姿を見かけた場合に「落ち着てください」というのはなかなか難しいかも知れませんが、それでも、ある程度距離があれば慌てる必要はないですし、大抵の場合ヒグマ達の方から離れていってくれるはずです。ヒグマまでの距離があり、またヒグマが向かっている方向が分かればそれを見ながら距離をとってください。
その際に走って逃げることは避けましょう。
走ることでヒグマを刺激し追いかけてくる可能性があるからです。
また、近距離で遭遇してしまった場合でも、ヒグマが他の野生動物同様にヒトを避けて遠ざかることが多くあります。
もし近距離の遭遇であっても、まずは焦らない事です。
特に超近距離(20m以内)で鈴を鳴らしたり大声を出すというのはヒグマにとっての威嚇行動となりますので厳禁です。
まずは出来る限り落ちついて、ヒグマから目を離さずに距離をとるようにしましょう。
右の写真は沼巡りの巡視スタッフがヒグマとの距離が約30mというところで出会ったヒグマ。この時はヒグマも巡視スタッフの姿を認識して、自分から遠ざかるように離れていきました。
5.親子グマには要注意
他の野生動物同様、ヒグマの子グマもそれはそれは可愛いのですが、勿論近づくのは厳禁!
ヒグマの母グマは冬ごもり中に越冬穴の中で子供を産みます。生まれたての子グマは500g足らず。ペットボトル1本分よりも軽い体重で生まれてきます。
それが越冬を終えて穴から出てくる時には5kgほどになっているのですが、それでも母グマに比べればまだまだ随分と小さく見えます。そんな当歳の子グマは本当に可愛いのです。
その後子グマは1年半~2年半ほど母グマと一緒に過ごしますが、その間母グマは子供を守るために攻撃的になる可能性が高い為、登山中などに親子を見かけた場合には子熊がどれだけ可愛くても、決して近づかずに距離を取って立ち去りましょう。
6.威嚇突進=ブラフチャージ
距離30m。この後巡視員を見たヒグマは自分から離れていきました。
高根ヶ原斜面は親子グマが集まる場所
ヒグマには威嚇突進=ブラフチャージと呼ばれる威嚇行動があります。
これは「これ以上近づくな!」のメッセージ。
威嚇の為の突進をして、人の直前で方向を変えてそのまま立ち去るというもので、人に対する直接の攻撃ではありません。
もし目の前に突進してくるヒグマが居たらそれはもうパニックになりそうですが、こうした行動があるということを覚えておいてください。
ただし、そんな状況にならないように、まずは周りをよく見て鈴の音や声で自分の居場所を知らせながら歩くことが最優先で、近距離で出会った場合でもヒグマの動きを見ながらゆっくりと後退してください。
ヒグマ情報センターの巡視員が一度、巡視中にヒグマと近距離で遭遇してしまいこの威嚇突進を受けたことがあります。その時は沢筋を上っており、鈴の音が聞こえない、そして見通しが悪い中、登り切った場所でヒグマと鉢合わせする形になってしまったそうです。その時巡視員は間近で鈴を鳴らしてしまいそれを威嚇と取ったのか、そのヒグマは巡視員に突進し、その後方向を変えて沢筋へ降りていったそうです。さらにヒグマが沢筋を離れなかったのであたりを見てみると子グマが木に登っていたとのこと・・・音が聞こえにくい場所、見通しが悪い場所、そして親子グマ・・・悪い条件が重なって起きてしまったアクシデントでした。
ヒグマ情報センターのスタッフがこの威嚇突進を受けたのはこれまでこの1度切り。もう2度とそうした状況にならないことを願いますが、このような習性がヒグマにあるということは覚えておくとよいでしょう。
7.万が一ヒグマが襲い掛かってきたら・・・
どれほどヒグマに出会わないように気を付けていても、こちらはあくまでヒグマ達の住処にお邪魔する側。どうしても不意の遭遇をゼロにすることは出来ません。そして山を歩く以上、そんな不意の遭遇からヒグマに襲われてしまう可能性をゼロにすることもできません。
最近北米やここ大雪や知床でもヒグマに襲われた場合の防御姿勢として言われているのが、ヒグマに襲われた場合にはザックを背負ったまま地面に伏せて頸部を手で覆い、足を開いてつま先で地面に踏ん張ります。これで頸部、背中および後頭部への致命傷を防ぐ防御姿勢をすすめています(北海道内での死亡事故においてこの部分が致命傷となっているケースが見られるようです)。
また、市販のクマ撃退スプレーの携帯も有効とされていますが、いずれも100%身の安全を保障するものではありません。
防御姿勢。
ザックは背負ったまま、うつ伏せになり頸部及び後頭部を手で隠します。足は開いて地面に踏ん張る形をとります。
市販のクマスプレー。ホルダーで腰のベルトなどに掛けてすぐに打てるようにして持ち歩くように。リュックの中に入れたまま持ち歩くのでは意味がないです。
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